白石理

マンデラ大統領は就任に際して、過去を乗り越えて新たな国の建設に全ての国民が参加することを促した。それと同時に、過去の人権侵害事件についての真相を明らかにし、そのうえで和解することを求めた。報復は、更なる報復を呼び、国を分裂に導く。その悪循環を断ち切り平和を築くために、国民の勇気ある行動を訴えた。こうしてできたのが「真実和解委員会」である。 ここでも理想と現実の隔たりがあったと言われる。深刻な弾圧、殺人、拷問に加わった人びとの公聴会での陳述は、真実を曲げ、自己弁護にすぎないものがあり、誠実な改悛に基いていないものもあったとされる。また、深刻な人権侵害に関わった者を赦免することに対して、犯罪を不問に付すものとして異論が唱えられることもあった。和解の難しさはあきらかであった。 しかし、長年武力紛争を経てきた多くの国で、負の連鎖を止め、平和をもたらすために、この「真実和解委員会」がモデルになったのも事実である。ネルソン・マンデラは、国民の間の深刻な亀裂を乗り越え、和解による平和の実現そして国の新たな出発を可能にしたことで、偉大な指導者として後世に名を残すことになった。